
入れ歯の当たりと歯ぐきの傷、我慢する前に知っておきたいこと
「少し当たるくらいなら、慣れるまで我慢した方がいいのでしょうか」。入れ歯のご相談で、私たちがよく伺う言葉です。同じ場所が擦れてできた傷は、使い続けるほど治りにくくなります。硬いものを避ける食事が続くきっかけにもなりかねません。
この記事では、合わない入れ歯を使い続けたときに口の中や食事に起こりうる変化を整理しました。あわせて、装着を休むかどうかの判断、自分で削らずに相談する理由、診察で確かめる内容もお伝えします。傷に気づいたときは、我慢を続けるより相談を考えてよい時期です。
この記事の要点まとめ
- 合わない入れ歯の刺激が続くと、歯ぐきの傷や炎症、噛みにくさ、食事の偏りにつながることがあります。
- 傷や痛みがあるときは、可能な範囲で装着を休み、自分で削らず歯科医院へ相談しましょう。
- 診察では口の状態と入れ歯の当たり方を確認し、調整・裏打ち・修理・作り直しなどを検討します。
目次
合わない入れ歯を使い続けると、歯ぐきや食事に何が起こる?
傷が繰り返されると、粘膜の炎症や盛り上がり、さらには食べにくさへと影響が広がることがあります。症状が一つで終わらず、つながって進みやすい点を知っておくと、受診の判断がしやすくなります。
同じ場所に当たる痛みや傷は、粘膜への負担の合図
入れ歯の縁や内側が一点に当たると、噛むたび、話すたびにその部分の粘膜がこすれます。食事中は同じ動きを何度も繰り返すため、わずかな当たりでも傷(潰瘍)になりやすいのです。合わない総入れ歯でできた傷と痛みの関係を調べた研究でも、入れ歯による粘膜の傷は痛みの訴えにつながりやすいことが示されています1。
一方で、唾液には痛みを和らげる物質も含まれ、その量と痛みの関係も研究されています1。痛みが弱いからといって、傷が浅いとは限りません。
傷を繰り返すと、粘膜の炎症や盛り上がりにつながることも
合わない入れ歯を長く使う、外す時間をとらずに一日中つけている、清掃が行き届かない。こうした条件が重なると、入れ歯の縁に沿って歯ぐきが赤く腫れたり、ひだ状に盛り上がったりすることがあります。
この盛り上がりは「義歯性線維腫(入れ歯の刺激でできる歯ぐきのふくらみ)」と呼ばれます。初めは痛みが少ないまま進み、そのままにすると潰瘍や感染、話しにくさや噛みにくさにつながることが報告されています2。ただ、見た目の似た変化はほかにもあるため、病名を自分で当てはめず、気づいた段階で診察を受けてください。
噛みにくさや外れやすさが、食事と会話を変えてしまう
傷をかばううちに、反対側だけで噛む、硬いものを避けるといった食べ方の変化が起こります。たくあんや肉、根菜が献立から少しずつ減り、やわらかい麺やおかゆばかりになる。こうした偏りが続くと、たんぱく質や食物繊維が不足しやすくなります。
入れ歯が浮きやすいと、サ行やタ行が話しにくくなり、人前で笑うのをためらう方もいます。食べる量が減った、体重が落ちてきたと感じたら、入れ歯の相談と一緒に食事の様子もお聞かせください。
「歯ぐきが変色してきた」ときは傷以外の原因も確かめる
歯ぐきの色の変化は、入れ歯の圧迫による赤み、炎症、治りかけの傷の白っぽさなど、さまざまな理由で起こります。見た目だけで原因を見分けるのは難しく、触診や経過の確認が必要です。
慢性的な刺激や治りにくい潰瘍があるときは、入れ歯だけが原因と決めつけず、医師にご相談ください。原因は診察で判断します。
ポイント
変色がなかなか引かない、範囲が広がる、入れ歯を外しても治りにくい傷を伴う。こうした場合は早めに診察を受けてください。
傷ができた今、入れ歯は使い続けてよい?受診までの判断

当たって痛む、傷がある。そのような間は、できる範囲で装着を休み、歯科医院に連絡するのが基本です。自分で手を加えず、入れ歯そのものを持って相談してください。
当たると痛む・傷がある場合は、装着を休んで歯科医院に連絡
傷がある状態で使い続けると、治る間もなく同じ場所が刺激されます。可能な範囲で外し、粘膜を休ませてあげてください。
とはいえ、食事や仕事の都合で外せない日もあるでしょう。その場合は電話で「どこが、いつから痛むか」を伝え、使い方について指示を受けると対応しやすくなります。外した入れ歯は乾燥させないよう水か洗浄剤に入れて保管し、受診日に持参します。入れ歯安定剤で当たりをしのぐと当たり方が読み取りにくくなるため、受診前の使用は歯科医院に相談してからにしましょう。
食べられないほど痛い、腫れや傷が広がるときは早めに相談
次のような状態は、予約日を待たずに連絡したい目安です。
- 痛みで食事がほとんどとれない
- 歯ぐきや頬が腫れてきた、熱っぽい
- 傷が大きくなる、数が増える
- 入れ歯を外しても傷が治りにくい
- 傷のまわりの色が変わってきた
入れ歯による傷の痛みは、当たる部分を整えたあとに和らいでいくかを経過で確かめていきます1。外しても治りにくい傷は、入れ歯以外の原因も考えて調べる必要があります3。色の変化に気づいていれば、それもそのまま伝えてください。
当たる部分を自分で削る・金具を曲げるのは避ける
やすりで削ると、当たっていない部分まで薄くなったり、噛み合わせの高さが変わったりします。痛む場所と実際に当たっている場所がずれていることも珍しくありません。削った跡が残ると、本来の当たり方が読み取れなくなります。
金具(クラスプ)を曲げた場合も、支えにしている歯へ余計な力がかかるおそれがあります。すでに手を加えた場合も、隠さずにそのまま伝えてください。どこをどの程度削ったかがわかれば、調整や修理の方針を立てやすくなります。
入れ歯が割れた・金具が外れたときは、破片も保管して持参
市販の接着剤で直すと、段差やずれができて粘膜を傷つけやすく、その後の修理も難しくなることがあります。割れたまま無理に使うのも控えましょう。
- 割れた破片や外れた金具は、袋や小さな容器にまとめておく
- 入れ歯本体は乾燥させずに保管する
- いつ、何を食べていて壊れたかを控えておく
食事中に破片や金具を飲み込んだかもしれないときは、歯科医院を待たずに、速やかに医療機関へ相談してください。
なぜ合わなくなった?調整から作り直しまでの相談の進め方

合わなくなる理由は、口の中の変化と入れ歯そのものの変化の両方にあります。診察でそれぞれを確かめたうえで、調整・裏打ち・修理・作り直しのどれが合うかを考えます。
歯ぐきや顎の骨の変化で、以前の入れ歯が当たることがある
歯を失ったあとの顎の骨は、年月とともに少しずつやせていきます。入れ歯は作った時点の形に合わせてあるため、土台側が変わると隙間ができます。その隙間で入れ歯が動き、特定の場所に当たるようになるのです。
長く問題なく使ってきた入れ歯がある時期から痛み出すのは、このずれが積み重なった結果と考えられます。清掃の状態や、夜は外して歯ぐきを休ませているかも確認します。外さずに使い続けることや清掃不足は、粘膜の変化を招く要因として挙げられています2。
入れ歯の摩耗や変形も、噛み合わせを調べる手がかり
人工歯は毎日の食事ですり減り、噛み合わせが低くなったり、噛む位置が前後左右にずれたりします。そうなると噛むたびに入れ歯が滑り、傷とは離れた場所に原因が隠れていることもあります。金具のゆるみ、土台(床)のひびや変形、外れやすさもあわせて確かめます。
傷のある部分だけを整えても、ずれた噛み合わせが残れば同じ当たりが繰り返されかねません。「ここでしっかり噛める」位置を探ることが、食事の喜びを取り戻す鍵になると考えられます。
診察では何を確認し、調整・裏打ち・修理をどう検討する?
診察では、お口の状態、暮らし方、ご予算などを確認します。痛む場所、食べにくいもの、外している時間帯などを聞いたうえで、入れ歯の当たり方と噛み合わせを確認します。視診・触診に加えてレントゲンや口腔内スキャナーで口の中を調べ、必要に応じて咬合圧(噛む力)や咀嚼機能を数値で捉える場合もあります。
| 対応 | 内容 | 検討されやすい状況 |
|---|---|---|
| 調整 | 当たる部分や噛み合わせを整える | 入れ歯自体はまだ使える |
| 裏打ち(リライン) | 内面に材料を足し、歯ぐきとの隙間を埋める | 骨がやせて隙間ができた |
| 修理 | 割れや金具の不具合を直す | 破損が一部にとどまる |
| 作り直し | 型取りから新たに製作する | 摩耗や変形が大きい、調整しても合わない |
調整のあとは使い心地や痛みの変化を見て、痛みが残れば再び当たりを確かめます。作り直す場合は、型取りがズレや痛みの少ない入れ歯の土台になります。
調整・裏打ち・修理は保険診療で検討されることが多く、作り直しも保険の入れ歯から選べます。金属床などの自由診療の入れ歯は公的医療保険が適用されず、費用は全額自己負担になります。一般的な相場は、金属床の入れ歯で1床(上下どちらか一つ)あたり20万〜60万円程度、ノンクラスプデンチャー(金具のない入れ歯)で10万〜20万円程度です。素材(コバルトクロム、チタンなど)や設計、補う歯の本数によって幅があります。これらは一般的な相場であり当院の費用ではありません。当院の費用は診察のうえでご案内します。
製作にかかる期間や通院の回数も、入れ歯の種類やお口の状態によって変わります。型取りから完成までの期間や通院回数には個人差があり、型取り・噛み合わせの記録・試し入れ・装着などの進み方は医師が判断します。当院での具体的な期間と回数は診察のうえでご説明します。完成後も、調整のために何度か通っていただくことがあります。
主なリスク・副作用として、新しい入れ歯や調整・裏打ちのあとには、次のようなことが起こる場合があります。
- 慣れるまでの間、当たる部分の痛みや傷、歯ぐきの赤み・腫れが出る
- 話しにくさ、異物感、唾液が増えたように感じる
- 金具をかける歯の負担が気になる場合は、医師にご相談ください
- 金属床では金属アレルギーによる粘膜の赤みやかゆみが出る(素材の選び方に配慮が必要です)
- ノンクラスプデンチャーの修理や裏打ちができるかは素材によって異なるため、医師にご相談ください
ポイント
相談しただけで作り直しが決まるわけではありません。調整・裏打ち・修理も含め、口の状態を見てから一緒に考えます。
相談するときは、症状と通院の都合を一緒に伝える
予約の連絡では、傷の場所と痛み始めた時期、食事への支障の程度、入れ歯が割れていないかを伝えるとよいでしょう。ご家族の送迎の都合や、仕事が忙しい時期もあわせて伝えると、通院の組み立てを相談しやすくなります。
調整に何回かかるか、作り直しならどのくらいの期間かは、口の中の状態によって異なります。受診時に口の中と入れ歯の状態を確かめてから、見通しを相談します。外した入れ歯も持参すると、当たり方や破損の状態を確かめる手がかりになります。
よくある質問
Q. 入れ歯が割れたとき、応急処置はどうすればいいですか?
A. 市販の接着剤で貼り合わせず、割れた破片や外れた金具を袋や容器にまとめて保管してください。本体は乾燥させないよう水に入れておき、破片と一緒に歯科医院へお持ちいただくと、修理か作り直しかを判断しやすくなります。破片を飲み込んだ疑いがある場合は、速やかに医療機関へご相談ください。
Q. 歯がほとんど残っていない場合、入れ歯にはどのような方法がありますか?
A. 歯が1本でも残っていれば部分入れ歯、すべて失っている場合は総入れ歯が検討されます。素材は保険のレジン床のほか、自由診療の金属床やノンクラスプデンチャー(金具のない入れ歯)などがあり、薄さや装着感、食べ物の温度の感じ方に違いがあります。どれが合うかは口の状態と暮らし方を伺ったうえで、歯科医師がご説明します。
Q. 入れ歯安定剤を使えば、受診しなくても様子を見られますか?
A. 安定剤は一時的に浮き上がりを抑える助けにはなりますが、入れ歯と歯ぐきの合わなさそのものは変わりません。傷や痛みがあるときは、安定剤で隠すより、当たり方を確かめてもらう方が原因に近づけます。使い方に迷う場合は歯科医院にご相談ください。
Q. 入れ歯をつけたまま寝てもよいですか?
A. 就寝時は外して歯ぐきを休ませるのが一般的です。外さずに使い続けることや清掃不足は、歯ぐきの盛り上がりなど粘膜の変化を招く要因として挙げられています2。外した入れ歯は清掃したうえで、乾燥させずに保管してください。
Q. 調整には何回くらい通う必要がありますか?
A. 傷の状態や合わなくなった理由によって異なるため、一律には言えません。調整後に使ってみて痛みが残れば再び確認する、という流れで進めることが多く、必要な回数の見通しは診察のうえで歯科医師がお伝えします。
参考文献
1. Ozdogan MS, Gungormus M. Salivary opiorphin levels in denture-related traumatic ulcers. Oral Diseases. 2024. PMID: 37793134 / DOI: 10.1111/odi.14754
2. González Gómez LA, Guedea Preciado NE, Martínez Nieto M, et al. Multidisciplinary treatment of epulis fissuratum: A case report. World Journal of Clinical Cases. 2025. PMID: 40726927 / DOI: 10.12998/wjcc.v13.i21.106413
3. Chiesa-Estomba CM, Mayo-Yanez M, Vaira LA, et al. Oral Cavity Cancer Secondary to Dental Trauma: A Scoping Review. Biomedicines. 2024. PMID: 39335539 / DOI: 10.3390/biomedicines12092024
神奈川歯科大学歯学部 卒業
1983~1984年
田中歯科医院 勤務
1984~1988年
鈴木歯科医院 勤務
1988年4月
とがし歯科医院 開院
本田式口臭治療認定医
